Interview

修了生のその後

片っ端から行動し、失敗への恐れではなく成功の先を見る

第2期 株式会社利他フーズ

代表取締役 猪本 真也

”ITと食で「豊かな一日」をつくる”という理念のもと、熊本県で馬刺しの通信販売やペットフード事業を展開する株式会社利他フーズの代表の猪本真也(いのもとまさや)氏。

ご自身が参加された第2期に加え、第3期には若手社員の二名を輩出され、180サミットでもご登壇頂きました。馬肉を使ったペットフード事業は、猪本氏が試行錯誤の末に形にされた新規事業です。経営者を目指すにあたってどういう学生時代を送っていたのか、Project 180への参加を通して何を考え、熊本を代表するベンチャー企業の代表として、日々どのように仕事と向き合っているのかについて伺いました。

自分で会社をつくる以外の道を選び、経営者へ

ー利他フーズには当初アルバイトとして入社されたと伺っています。3年後の2019年に代表取締役に就任されましたが、経営にはもともと興味があったんでしょうか?

猪本氏「大学生の頃から社長になりたいと思ってました。当時から食わず嫌いせずに経営に関する本はたくさん読んでいましたね。僕が選んだ本は今でも社内に置いているので、誰でも好きな時に読めるようになっています。

映画が好きだったので、大学を卒業後は映像制作の会社に入社しました。ただ、面接のときには『4年で辞めます』と伝えていて、当時から独立志向は強かったと思います」

ー独立してご自身の会社を創業するのではなく、利他フーズの代表という道を選ぶにあたって迷いはなかったのでしょうか?

猪本氏「私自身、社長になるためには会社をつくらなければいけないと思っていたのですが、利他フーズで働くうちにその考えは徐々に変わっていきました。

たとえば、売上が1億円を超えるような会社をゼロからつくろうと思うと、普通は10年くらい掛かるんですよ。でも、既にある会社であれば3億や5億、10億でさえ2、3年で達成できると思えたんです。人生一度きりなので、100億の企業を作ることができれば、その先に知らない世界があると思って、利他フーズの代表という道を選びました。」

分からないことは周囲に聞く。コツコツと進める新規事業

熊本で育った馬の肉を中心に、理想的な栄養バランスを考えて開発されたドッグフード

ー猪本さんの入社後に始まった、ドックフード開発に至るまでの経緯を教えて頂けますか?

猪本氏「アルバイトとして入社したころは、いわゆる雑務も含めてなんでもやっていました。たとえば、会議のときのお茶出しとかですね。今は、会社として会議でのお茶出しは禁止にしています。会議自体も30分の時間制限を設けていて、極力無駄な時間をなくすように徹底しています。社員の残業もほとんどありません。

1人で新規事業を始めようとすれば、何をやるにしても1000万円くらいはかかるんですよ。それを会社が負担してくれて、自分の好きなようにやらせてもらえるというのはありがたいですよね。

当時、私は犬についてほとんど知らなかったので、周りにいる飼い主さんなどの犬に詳しい人に聞いたり、市販のドッグフードを買ってきて、1人で家で実験的につくってみたりしました。作り方を知るために、全国の工場に「こういうドッグフードをつくりたいんですけど、どうすればいいですか?」と片っ端から電話をしたり、論文を読んだりして、自分なりに試行錯誤して研究していました」

猪本氏「自分一人では分からないことだらけなので、結局は周囲の知っている人に聞くしかないんですよ。結果的に今ペットフード事業がうまくいっているのは、当時、良い工場や人に巡り会えたことや、先輩社員がたくさん教えてくれたからだと思います。

新規事業と言っても華やかなものではなくて、基本的には地道な作業をコツコツと進める日々でした。『どういう商品名がいいんだろうか?』『どこに強みがあれば売れるんだろうか?』といったことを考える。わからないことがあれば、知っている人を見つけて、直接聞く。シンプルですが、新しいことを始めるためには、とても大切なことです」

やらないことを決め、やるべきことに全力で取り組む

ー新規事業を任された一方で、失敗したらどうしようといった不安はありませんでしたか?

猪本氏「全くなかったわけではありませんが、会社自体が新しいことへのチャレンジを大切にする文化だったので、後押ししてくれたと感じています。失敗したとしても、揚げ足をとったり否定する人は1人もいません」

猪本氏「会社自体は、僕が入社したころに比べると社員の数も増えて、細かいルールができたりと、変わった部分もあります。

一方で、新入社員だった僕に新規事業を任せてくれたように、新しいことへチャレンジする企業文化はずっと変わりません。利他フーズは現在、利他グループの一員ですが、創業した倉崎が起業家なので、その精神をずっと受け継いでいるんだと思います。

他に変わっていないことと言えば、私が周囲を頼りにしていたように、自分たちだけでビジネスはできないと十分に分かっていることですね。利他フーズは馬肉を扱う会社ですが、社内を見てもらえれば分かる通り、誰もお肉を切っていませんし、加工もしていません。

私たちがやっているのは、あくまでウェブマーケティングです。商品を企画し、どうやって売るのかを考え、お客様に届けるのが一番の強みです。製造はもちろんですが、物流も協力会社さんに全てお任せしています」

3期にご参加頂いた若手社員のお二人。左が村田涼さん、右が中山翔平さん

ー第2期は、代表である猪本さんご自身が180に参加し、翌年には若手社員のお二人にご参加頂きました。ご自身の感想やお二人の反応について教えて下さい。

猪本氏「私がはじめて180の話を聞いた時、『こんなにおもしろそうなプログラムがあるのか』と思い、まずは自分が参加することにしました。日本の先頭を走る企業文化を肌で感じながら、一緒に新規事業を考えられたのはとても新鮮で楽しかったです。

同じ経験を社員にもしてもらいたいと思い、立候補制にして参加者を募集したところ、5名ほどが手を挙げてくれました。2名までの参加ということだったので、話し合って決めてもらいました。

休日を潰して研修に参加するわけですし、立候補制で主体的に関わる必要があったので、会社の仕事とは全く違った向き合い方が必要だったと話していました。最終発表は私も現地で聞かせて頂きました」

猪本氏「チームで合意形成をすることの難しさを感じていたようです。社内では通るようなアイデアでも、相手の立場や仕事をしてきた環境、本人のバックボーンをよく知らなければ、うまくいかないという経験は、社内では決して得られなかったのではないかと思います。

新規事業は作り続けないといけないと思うんです。会社の中にずっといれば、価値観が凝り固まってしまったり、周囲の意見に流されてしまうこともあります。だからこそ外に出て、柔軟な発想で意見を交換できたことは、私にとっても彼らにとっても貴重な機会でした」

ー猪本さんには180サミットにもご登壇頂きました。県外パートナーのお二人に対する当時の印象やその後の変化などについて教えて頂けますか?

猪本氏「180に参加する前から、何を新規事業として進めるかの大筋は決めていました。そこに二人が様々な意見をくれて、キャラクタービジネスやキャットフードのアイデアもでたりして、私一人ではあそこまでできなかったので、とても感謝しています」

評価を明確にすることが、会社と社員の幸せに繋がる

2021年9月に開催した180サミットでは、県外パートナーの二人はオンラインで参加し、当時を振り返って頂いた

猪本氏「180サミットの少し前、2021年の7月に社内勉強会を開催したときに、二人をゲスト講師としてお呼びしました。その前から、彼らの転職の話は聞いていました。非常に優秀な二人でしたが、180やチームでの活動を通して、少しでも働き方に変化が生まれたのは、そこにいた当事者としても嬉しいですね」

ー最後に、利他フーズの新規事業への取り組みや、猪本さんが大切にされている、働く上での考えについて教えて下さい。

猪本氏「基本的に、新規事業に関しては倉崎と私が中心になって進めています。ただ、商品開発や周辺需要の拡大として、たとえば馬刺しと別の何かを組み合わせてセット商品を考えてみたり、加工品の新しい商品企画を打ち出したりすることは、社員それぞれやっていますね。担当の部署以外からも意見をくれることもありますよ。

利他フーズでは、社員全員が明確な役割をもって働いてくれています。逆に言えば、目的のためにどういったプロセスを踏むかについては任せていて、権限は必要に応じて自分で取りに行くことを重視しています。

一般的に、離職の理由で最も多いのは適切に評価してもらえないからなんですよ。評価のポイントさえ分かっていれば、それに対して努力できる。採用基準が明確になり、業務も効率化されて、プライベートに時間を割くこともできる。結果的に全てが社員の幸せに繋がっていくのだと思います」

インタビュー当日、オフィスの前で待っていると後ろから声を掛けてくださった猪本さん。片手にはサンドイッチ。メンターの若林さんに「180にはメンターとして参加した方がいい」と言わしめるほどの仕事ぶりとは打って変わり、社員の方と話される姿は、社長然としておらず、とても気さくな方でした。熊本が誇るデジタル・デフォルトな会社のさらなる成長が楽しみです。